中国に渡り無事にシェンファと会えた涼は日本から持ってきた
数種類の花火をシェンファの前でやって見せます。

ネズミ花火の場合
火を点け地面でクルクルと回りあらぬ方向へ走る花火を見ていた涼はふと、
やま路でお蕎麦を食べた時に御椀の中の漬けダレをお箸で回していた時の事を
思い出しました。
　涼「はぁ〜、今頃どうしているかな？」
深いため息の涼。
莎花「キャー、涼、何これ〜、こっちに来た〜」
初めて見る花火に一喜一憂するシェンファ。

ロケット花火の場合
点火して数秒、けたたましい音を立てて中国の空へ飛び立ちます。
けたたましい音・・・ガチャ〜ン。
やま路でのアルバイト時代、慣れない皿洗いで何度も皿を割ってしまった時の事を
思い出しました。
　涼「はぁ〜、親父さん元気かな？」
深いため息の涼。
莎花「キャー、涼、凄い勢いで飛んで行っちゃったよ〜」
違う種類の花火に一喜一憂するシェンファ(上と同じやん。(笑))。

打ち上げ花火の場合
導火線にマッチで点火し、数メートル距離を取ります。
やがてパスッと言う鈍い音と共に空気が澄み渡った異国の地で空高く、
小さいながらも自己主張する花火が打ち上げられます。
パァ〜っと散った色とりどりの光を見る内に、やま路で自分の誕生会をやって貰った時の
クラッカーから飛び出した紙吹雪を思い出しました(く、苦しい(笑))。
　涼「はぁ〜、あの時に貰った時計は今も左手で時を刻んでいるんだよな」
ＴＩＭＥＸの時計はお蕎麦屋さんの女の子からのプレゼントでした(もう何でもアリ)。ここでもため息をつきます。
莎花「キャー、涼、凄いね〜。これ何て言うの？」
打ち上げ花火に一喜一憂するシェンファ(そろそろ飽きたでしょ？)

線香花火の場合
最後の花火です。
そっと火を点けます。儚く線の細い頼りなげない線香花火。
優しく折れないように親指と人差し指で静かに持ちます。
やがてパチパチと弾ける音が聞こえると、線香の中心にはボワ〜っと赤い球体が
生まれて行きます。
赤い玉はどんどんと大きくなり、それにつれて周りの火花もまるで伸びをするように
大きく腕を伸ばします。
ただ残念な事にいつまでも同じ状態は保てません。
最大限にまで膨れ上がった球体は自分の重さに耐え切れず地面に落ちました。
この時に思い出したのは日本を離れた時に彼女が見せた大粒の涙でした。
　涼「・・・・・」
何も言えません。
莎花「あ〜あ、終わっちゃったね・・・」
一瞬が生んだ花火の美しさに酔いしれるシェンファ。

全ての花火を終えた涼はすくっと立ち上がり歩き出します。
莎花「涼？何処に行くの？」
　涼「ごめん。俺、日本に帰る」
莎花「え？だってお父さんの事は・・・」
　涼「日本に忘れ物をしたんだ」
莎花「忘れ物？」
　涼「ああ。大事な忘れ物だ。俺はそれを取りに帰らなくちゃいけない。
　　　決して忘れちゃいけない、もう絶対にこの手から離しちゃいけないんだ」
莎花「その忘れ物って、わ、私よりも大事なものなの？」
　涼「ごめん・・・」
莎花「じゃ、じゃあ何？あの時、洞窟で二人で話したじゃない！誓い合ったじゃない！！
　　　二人で蒼龍を見付けようって。二人で鏡の謎を解いて、お父さんの仇も取ってって・・・。あれは嘘だったの？」
　涼「嘘じゃないさ。親父の仇は俺が取る。だけど、その前に日本に帰らなくてはいけないんだ。
　　　ずっと側にいて欲しい人が日本にいるから・・・。シェンファ、ごめん」
そう言って涼は後ろも見ずに、だんだんと小走りにその場を去ります。

後に残されたシェンファ。
周りには火薬の匂いと、全てが燃えきった花火の残骸。
莎花「りょ、涼の馬鹿〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜！！！！！！！」

・・・完・・・