21:23分
植松さんが大きく手を振り、天野さんが笑い、黒田さん、
RIKKIさん、白鳥さんも笑いながら手を叩きます。
森田さんも植松さんに習って手を振り、その横で青木さんが
手を叩く・・・。

どこからともなくスタンディングオべーションが沸き起こり、
(涙でぐしゃぐしゃだった僕はさすがに遠慮したんですけど)
拍手の波が後から後から押し寄せます。

コンサートが全て終わったので、今まで言いたくても言えなかった
褒め言葉が各所から聞こえてきます。
それにまじり指笛、口笛も鳴り響き、近くに座っていた兄ちゃんは

「やっべー、すげー感動した」

とか口にしていましたし、

「泣いちゃった」
「すっごい良かったー」

と、周り中が感動に溢れていました。
僕は最後の「FINAL FANTASY」にまだ酔いしれていたので、
ちょっと放心状態ではありましたが、拍手だけはずっと続けて
いました。
だって、こんなに心と体を震わせてくれたんですもの。
音楽を聴くだけでこれほどの涙が流れるなんて初めて知りました。

ゲームを遊んでいた上で、この曲を聴いたとき、
物凄い特別なことがあったわけでもないのですが、
会場で僕の涙腺は崩壊してしまったんです。

感動以外の何物でもありません。
もちろんこの曲だけでなく、ここまでの様々な過程が生んだ結果が
僕にとってはちょっと恥ずかしいエピローグとなった訳ですが、
この感動を生んだ出演者の方たち全てに
最高の賛辞を送る(贈る)のが、ここで出来た僕の精一杯のお返し
でした。

だから拍手です。
ずっとずっと拍手です。
一杯、一杯拍手を繰り返したんです。
そして、コンサートは全ての演目を終えました・・・。

□□□　ファイナルファンタジーコンサート　第２部　完　□□□

21:25分
「以上をもちまして、本日の公演は終了させて頂きます。
　お帰りの際にはお忘れ物のないよう、
　お気を付けてお帰り下さいませ。
　本日はご来場下さいまして、本当にありがとうございました」

感動のフィナーレから拍手を続けて1分30秒。
青木さんのこの言葉を最後にコンサートは完全に幕を閉じました。
後は帰宅するだけです。
が、僕は直ぐに席を立ちませんでした。

他の皆様と出入り口でもみ合うのを避けたかったのも
理由の一つですが、もしかしたら残っている方に何かしらの
プレゼントなど無いかしら？と、少々意地汚いことを考えて
いたからです。
放心状態のくせにかなりちゃっかりしているアダムです。(^^;

でも特に何も起こりませんでした。
植松さんが客席に来るわけでも無し、森田さん、青木さんに
サインをお願いできたわけでも無し。
本当に何もなかったです。

唯一、先ほど植松さんからご紹介の上がった浜口史郎さんは、
客席の中央にまだおいでになっていたので、何人かの方たちは
お話を伺いに行かれたりしていました。
もしかしたらサインなどもあったかもしれません。

少し経ってそのことに気が付いた僕も荷物と上着を持って席を立ち
客席の中央に向かいましたが、浜口さんはとてもお忙しいご様子
だったので、そのまま舞台の前に置かれていたFFの看板を
ひとしきり眺めた後、廊下が覗けるようになった出口をくぐり、
ホールを後にしました。

絨毯が敷き詰められた廊下に出ても、先に退場された皆様の姿は
殆ど無く、既に階下に降りられたようです。
僕もこの先この場にいても何も望めないことを悟って、
エスカレータに身を任せ、グッズ販売を行っていたホールの２階へ
足を運びました。

3時間半振りに戻ってきたその場は、人もまばらで多くの方が
帰路についたことを物語っていました。
コンサートが大盛り上がりだったので、人気のなさに
少し寂しい感じがしました。

でも仕方ありません。
僕は少々疲れていたので、１階が見渡せる端まで歩いていくと
手すりに寄りかかりながら、会場を後にせず余韻に浸っている
わずかな人たちを肴に、ポケケ〜〜〜っとしておりました。

で、そうしていると、僕から見て右手側で、お姉さんたちが
お客さんから何かを受け取っている姿が見つかりました。
「はて、何だろう？」とぼけた頭で考えてみると、会場入り
したときに入り口で渡された広告の束を思い出しました。

その中にコンサートの感想アンケート用紙が
一緒に入っていたんですね。
「あ〜、あれ、僕も書かなくっちゃ」ってことで、近くにあった
カフェのテーブルを机代わりにして、アンケート用紙に手持ちの
ペンで各項目を埋めていきます。
時間帯が遅かったせいか、カフェも営業を終えていたため、
僕以外には誰もいなかったんですよね。

そんな僕に気が対のか？近くにいたカップルさんの１組が
同じようにテーブルまでやってきて、アンケート記入を
始められました。

ある程度質問数が多かったアンケートに、仲むつまじい
カップルさんは、あ〜でもない、こ〜でもないと話しながら
ペンを走らせます。
それを左目の端でとらえたアダムは

「ええなぁ〜、自分一人じゃけんの〜。相談したくとも
　する相手がおらんのじゃ・・・」

と、「お前、何処の人間だよ？」と疑われること間違いなしの
疑問を抱えながら、更に回答欄をせこせこ埋めていきます。

バッチリ１０分くらい掛かったでしょうか？
アンケートを書き終えた僕は、筆箱にペンを収め、１階へ向けて
階段を下りていきました。

１階へ降り立つと、入場したときには皆さんの姿に
目を奪われていたのであまり気付かなかったのですが、
脇にはお祝いの花束が飾られており、
確かファミ通の浜村通信さんからの花もあったのを見て、
「へぇ〜」とか思ったことを記憶しています。

入場口を通ると、スタッフのお姉さんに

「ありがとうございました〜」

と声を掛けられ、自動ドアをくぐり外へ行くと見せかけてから、
僕は右に90°向きを変えアンケート回収の場所へと向かいます。
まあ、見せかけたのは嘘ですけど。(^^;

で、お姉さんに記入済みのアンケートを渡すと、１階と２階を
ぐるっと眺めてから、自宅にこれから帰る旨を携帯で告げました。
電話口には母親が出たので、恥ずかし気もなく

「最後の曲を聴いて泣いちゃったよ〜」

ともらしたら、

「音楽を聴いて泣くの？」

と折角よい気分だったのに、水を差されてしまいました。
まあその後の

「でも感動したんでしょ？良かったじゃない」

と言う言葉にまた機嫌を良くして電話を切ると、今度こそ本当に
東京国際フォーラム、ホールＡを後にしました。

右手に手提げ鞄。
左手に会場で購入したパンフとＴシャツが入った袋を持ち、
僕は有楽町の駅へとゆっくり歩いていきました。
今日感じた一生涯忘れることのない
素敵な思いを胸に秘めながら・・・。